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【感想と考察】『その着せ替え人形は恋をする』13巻【漫画】

 2023年5月24日に『その着せ替え人形は恋をする』最新13巻が発売されました。『着せ恋』は半年に一度の刊行ペースなので、久しぶりの記事更新になります。

 前12巻、11巻の感想記事も書いています。

 以下よりご覧ください。

isoisogingin.hatenablog.com

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13巻感想と考察

『天命』ハニエルのコスプレ

 『着せ恋』13巻には「『天命』編」の衣装が完成したところから始まる。話数としては96話から102話までが収録されている。12巻では五条が衣装を作り上げるところまでが描かれた。そのため今回はお披露目回というのが一番分かりやすい。

 ただ、五条はハニエルの衣装作りに並々ならぬ力を注いでいる。それは五条がハニエルというキャラに圧倒され、魅了されたことを示す。

 「作ったもので人の心を動かす」

 コスプレであれ、漫画であれ、雛人形であれ。この作品にはクリエイターとして描かれ、五条もその一人である。つまりは、クリエイターとして圧倒的な力を見せつけられた。だからこそ、それを表現できるように挑戦したい。

 元はと言えば海夢が依頼した衣装製作。

 そのモノづくりは既に五条の表現と挑戦の場に変わっている。しかし、コスプレは衣装だけでは完結しない。衣装を着るコスプレイヤーの表現があって初めて成立するのだ。だから、五条は海夢に頭を下げる。

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Ⓒ スクエアエニックス 2024

福田普一『その着せ替え人形は恋をする』96話 より

 当然、海夢としては自身がしたいコスプレ活動を手伝ってもらっている状態である。しかし、その活動が五条がそれほどに全力で挑戦する熱量を持てることになっていることは海夢にとっても嬉しいに違いない。

 海夢は五条の表現を完成させたいのだ。

 海夢の願いを五条は完成させたいし、五条の願いを海夢は完成させたい。そのような意味では二人の関係は相補関係にあり、最早お互いにかけがえのない存在だ。

 だから、海夢は五条が言った通りの表現を全力で遂行する。当然、時折笑顔のファンサービスはあるものの、終始無表情で人を圧倒するような表現をする。

 その様子に、旭さんは思わず「姫」と叫んで泣き出してしまうほどに感動する。絶対、絶叫しながら泣くことは予想がついていたが、想像以上の感動っぷりである。結果として、コスプレとしての大反響と共に「姫」という呼び方が広まっているのも最高に業が深い展開となった。

f:id:isoisogingin:20240524005459j:imageⒸ スクエアエニックス 2024

福田普一『その着せ替え人形は恋をする』98話 より

 このヲタクに対する個人レスポンス(全力の笑顔)は旭でなくても、推しを前にしたヲタクは全員泣いてしまうに違いない。

コミケのコスプレ撮影ルール

 上述した通り、囲みという形式で撮影を受けることになった海夢。しかし、物語中で示されている通り、海夢は今回がコミケ初参加。当然、撮影のルールや終わらせ方などを知らない。

 それを察した涼香さんたちが、囲みの方々を整理することで、ハニエルのお披露目は終了する。ブログ主自身もコミケには参加したことがなく、囲みという文化を13巻を読んで初めて知ったくらいである。

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Ⓒ スクエアエニックス 2024

福田普一『その着せ替え人形は恋をする』100話 より

 ただし、実際に存在する文化であることに違いは無い。有名コスプレイヤーえなこさんのコミケでの囲みの状況を投稿したポストがあったので、引用させていただく。

 こうやって見ると圧巻である。

 被写体であるコスプレイヤーは勿論のこと、それを取り巻くカメラマンまで含めてフィクションと疑うような光景だ。この中心で海夢はコスプレを披露したのだ。

ハニエルの反響と五条の心境

 今回のハニエルのコスプレが今までのコスプレと大きく異なる結果となる。その要因が反響の大きさである。カメラマンの多さ、SNSへの投稿数の多さ、五条が作成した衣装の完成度、海夢のハニエルを表現しきった表情。

 記載した全ての要因が噛みあい、その拡散は原作者に届くまでになった。当然、SNSではバズった状態で、プロコスプレイヤーとしてスカウトが来る状態にまで発展する。

 その一方で描かれるのは五条の嫉妬、そして海夢の困惑である。その前提として、コスプレは五条と海夢が二人三脚で表現してきたものだ。五条の心境はモノローグとして明確に記載されている。

 「虜にさせるように振る舞って下さいなんて言わなければ良かった」。これは五条の心境として明言せている言葉だ。五条が表現したいものをそれ以上のパワーで表現しきる海夢の魅力。それを大勢の人に見せ、その外に自分がいる。

 その構図が五条にとっては耐えられないのだ。

 一方で、海夢もコスプレは二人で趣味で続けていたものであり、困惑を隠しきれない。また五条の心境の変化による様子の変化にも気を遣っている。

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Ⓒ スクエアエニックス 2024

福田普一『その着せ替え人形は恋をする』XX話 より

 ここで考察すべきは2つある。

 1つは二人のコスプレ活動の在り方についてだ。今までは「この作品が好き」という二人の会話から始まり、二人の間で表現が完結していた。しかし、今回の反響を受けて今後のコスプレ活動は否応なく外部が注視している状態となる。それによって二人のコスプレ活動の在り方が変わっていくかもしれない。

 そしてこれに関しては、海夢のコスプレイヤーとしての表現は勿論、衣装の方に関しても好感を得ていることは注記しておく。海夢だけでなく、五条に対しても注目のスポットが向く可能性も考慮しておこう。

 2つめは、二人の恋愛的な関係の進行についてだ。今回五条が見せた感情は海夢が世間に拡散されたということに対する「独占欲」そのものである。そして五条から海夢に対して友達以上の感情が描かれるのは貴重である。

 小さなモヤモヤかもしれない。

 それであっても、その「独占欲」は五条が海夢との関係を大切に思っている何よりの証拠である。このモヤモヤは今後の二人の関係を動かす要因となるだろう。

主のイチオシシーン

 海夢が五条に感謝を伝えるシーン。この頃は、これからの反響や影響などが全く見えていなかった状態。しかし、その時点での想いこそが海夢にとっても全てなのだろう。

 自分がやりたいと思ったコスプレを、自分が考える以上の衣装とメイクで表現する。五条と海夢の二人だからこそできるコスプレ。その衣装を着ている「着せ替え人形」本人は幸せ真っ只中に違いない。

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Ⓒ スクエアエニックス 2024

福田普一『その着せ替え人形は恋をする』97話 より