雨隠ギド先生が描く新作『おとなりに銀河』。
その最新4巻の感想を書いていく。
前回記事はこちらから。
『おとなりに銀河』4巻感想と考察
始まりと終わり
4巻の感想を一言で表すなら「糖分過多」。
本巻では、一郎としおりがこれでもかとイチャイチャを繰り広げる。しかし本質は変わらず、純粋で真っすぐな二人の姿が描かれている。
そんな4巻の物語は、一郎が連載していた漫画の打ち切りから始まる。
「諸行無常」。
平家物語の冒頭文句であり、仏教の根幹を成す思想である。耳馴染みの良い言葉であろう。
始まった作品はいずれ終わる。そして、終わる作品があれば始まりそうな作品もある。
一郎は打ち切り。一方で、しおりは新人賞への申し込み。そんな対極的な状況であるものの、そこに至る道のりは同じなのだ。一郎は物語を上手く終わらせるために、漫画をまとめて描いていかなくてはいけない。しおりは申し込みのために、全て自分の手で漫画を描かなくてはいけない。要約すれば、二人とも膨大な作業に追われるのである。
忙しければすれ違う。
しかし、しおりは前向きに捉える。
『おとなりに銀河』16話 より
二人とも「漫画を描く」という点では全く同じ作業。しかし、その内容は全く異なる。終わるために描くことと、始まるために描くこと。その際に用いるエネルギーや感情も違う。
描きたかったものを描き切れない不甲斐なさ、一つの夢が終わってしまう悲しさ、仕事を失うという不安。多くの感情が渦巻くのだろう。
しおりの方は、なんと新人賞期待賞を受賞する。
先輩漫画家として、一郎はしおりに感想を求められる。一郎の感想は「面白かったし悔しかったー…」。自分の方が先輩という自負はあって、大賞ではなく期待賞という過小評価があって、それに気づいた自分の器の小ささに驚いて。
また一方で、その時間はしおりにも不安を与える。漫画を読んで感想を言語化するまでの時間。人の評価を仰ぐその時間が首が絞まる思いではなかろうか。ましてや、しおりは島民の感情が自動的に流れ込んでくる環境で育った。
つまり、この不安すらも一郎と出会って知ったものなのだ。
"他人"だからこそ感じる不安。でも、その不安すらも共有できる。恋人という関係になった二人はその感情も過程も全て曝け出すほどに純粋である。しっかりと言葉に残す二人は、その不安すらも共有できる正しく”素敵な関係”であると思う。
『おとなりに銀河』16話 より
加えて、これを機に名前呼びになるので目を見開いて読んでほしい。糖分過多注意である。
他人の感情
上述した通り、4巻はイチャイチャ回である。しかし、裏テーマとして語られていることに他人の感情を知るという事が挙げられる。
しおりは島民と交信できる環境で育った。
しかし、島外では当然自分以外の人の感情は分からない。この「分からない」ことは怖い事なのだ。そして世の中は多様性に満ちている。誰しもが姫を中心に生活していた島内とはまるで違う。人それぞれ持っている感情は十人十色で、それが立場の違いによっては否定感につながることもある。
しおりの描いた新人期待賞を受賞した漫画がSNSでバズる。
一斉に押し寄せる大量のコメント。当然その中には肯定的/否定的様々な感想がある。本来はそれを、割り切ってしまうのが精神衛生上は正しいのだろう。しかし、他人の批判に慣れておらず、かつ純粋なしおりはそれすらも正面から受け止めようとする。
しかし、当然無理なのだ。
負の感情を受けることに慣れていないしおりには、ネットの感情は混沌で重すぎる。
『おとなりに銀河』18話 より
ここで一郎(彼氏)の出番なのだ。
落ち込む彼女にかける言葉。それは自身を無くしているしおりに、真っすぐな想いを伝えることである。他人の感情は必ずしも負の感情とは限らない。
好きだ。面白い人だ。
一郎が率直な想いを伝えることで、しおりは元気を取り戻す。
前向きに捉えれば、「そういう人も居る」。例え、自分とは価値観の異なる意見だとしても、それに触れられるだけで貴重なことなのだ。それを理解したから、しおりは島から出て正解だったのだろう。
緊急事態
世の中は正の感情も負の感情も跋扈する。同様に、良いことがあれば、悪いこともある。しおりと一郎の幸せそうな日常は雲行きが怪しくなる。
一郎が倒れたのだ。
病名は急性虫垂炎。
腸が腫れることによる病気で、一郎は一週間程度の入院を余儀なくされる。
しおりは彼女ではあるものの、身元保証人とはなれない。もか姉の登場により、無事入院の手続きまで済ませることはできたが、しおりには無力感が残る。
退院後、一郎は何も起きないように頑張るのではなく、何か起きても大丈夫なように備えておくことが重要であると考える。そして、それはしおりと一緒に居たいと願うからこそ、しおりと一緒に考えることなのだ。
正面から想いをぶつけ合えるこの二人なら、問題は無いのだろう。
『おとなりに銀河』19話 より
また、202号室の穂波さんと205号室の栗津さんの関係にも注目だ。穂波さんはネイリスト、栗津さんは会社員。穂波さんはしおりと仲が良く、一郎が倒れたことに対しても、あれやこれやと手伝えることを考える。そこに、居住者としてのライン引きをしたのが栗津である。冷静な判断からなる正論に穂波は納得すると共に「きゅん」としている。
恋人関係が長く続かないという穂波にも新しい春が来たのかもしれない。普段はふわふわしている栗津の冷静な一面。これがギャップ萌えか。
『おとなりに銀河』19話 より
イチャイチャは続く
一郎の入院があったものの無事に退院したことで、日常が戻ってきた。つまり、一郎としおりのイチャイチャも戻ってくるのだ。
グランピングに行くことになった一同。展開としては、しおりが流れ星の姫であることを自白する。それをチビちゃんもか姉含む一郎以外の人が聞いた上で信じてくれるという重要な場面がある。
しかし、そんなもの二人のイチャつきの前には小さい問題だ。実はグランピング当日はしおりの誕生日である。今まで誕生日のたびに島民から大量の贈り物を貰ってきたしおり。ただし、一郎が慣れない店に入り、必死に考えて選んでくれたというネックレスは何よりも嬉しいものなのだ。
『おとなりに銀河』20話 より
主のイチオシシーン
お家デート回のこのシーン。
初めてのお泊りデートに緊張する一郎としおりの表情に注目である。この後、アニメ祭りになったのも二人らしくて好きである。
『おとなりに銀河』17話 より