雨隠ギド先生が描く新作『おとなりに銀河』3巻の感想を書く。
前回記事はこちらから。
まずは見てほしいこの表紙。
手を繋いで歩く一郎としおりの姿が尊い。涙流すレベル。
『おとなりに銀河』3巻感想と考察
”契約”への反抗
前巻感想記事でも記述したが、一郎もしおりも純粋で謙虚で真っすぐである。
一郎は、電話越しにしおりの母親に突然「付き合っている」宣言したことを後悔する。勿論、付き合っているという内容に対してではない。前触れもなく電話越しに伝え、しおりとの関係を悪化させたかもしれないという部分にである。
そんな一郎に対して、しおりは素直に嬉しかったと伝える。そして、一郎が自分を卑下することに傷つくのだ。
『おとなりに銀河』11話 より
喧嘩にも満たない、率直な価値観のぶつけ合い。
信頼できる人物だからこそできる言葉のやりとりを「契約」は許さない。
しおりの感情は一郎に影響する。一郎は眩暈に襲われ、倒れこむ。
しおりは、遂に決意するのだ。契約は、うんざりだ、と。
倒れこんだ後、一郎はしおりを好きな自分は結構好きだと伝える。
しおりを傷つけ、悲しませてしまったことへのフォローである。それを受けて、しおりも赦すのだ。沢山考えすぎる部分も一郎の良いところである。だから、もっと考えて、もっと好きになってほしい。(このしおりに純粋さが最高である)
恋人だからこそ、お互いの価値観をぶつけた後はお互いに譲り合って、赦し合って、認め合えるラインを決める。その様子が正しく描かれていると思う。
『おとなりに銀河』11話 より
親心と子心(五色家の場合)
一郎の不安は的中する。
しおりの母親である五色都(ミヤコ)と父親である五色健(タケル)。
旅行帰りの夜に突撃してくるような突飛な行動。しかし、まちとふみおのような小さい子どもを気遣って出直すような常識も持ち合わせているようだ。
しおりは両親と対談するにあたって目標を2つ定める。
1つめは、契約の解除方法を聞くこと。2つめは、帰ってもらうこと。
しかし、話し合いはスムーズには進まない。しおりが一郎に騙されている、弱みを握られていると偏向的な考えを貫く五色都との話し合いは平行線。しおりは、母親に彼氏のことを良い人だと認めてほしかったようだ。
しかし、その願いは叶わない。
五色都はしおりの話に耳を傾けることなく、契約の解除を持ち掛ける。
契約解除に関しては、一郎としおりにとっても願ったり叶ったりである。その条件を呑む。ここで認識しておきたいのは、一郎やしおりは契約と婚約を別物として捉えているのに対して、都は契約の解除=恋愛関係の解消と捉えていることである。
これで1つめの要件は満たした。
続いて、現在の生活はしおりを腑抜けにすると都は言う。親からの支援ありきの自由。仮初の喜劇。
でも、楽しいことは悪い事ではない。
『おとなりに銀河』12話 より
話し合いの結果、しおりは仕送りを今までよりも抑えた上で1年間やってみるということで落ち着く。五色健が言うように、漫画を描くことに関しては島を出る必要はない。今回の協議はそのような意味で子心を尊重した形式になる。
契約破棄と恋心の行方
五色家との顔合わせの結果決定した、契約の解除。
それを実行すべく、島から馬門紅葉と古牧京吾という従者二人が派遣される。
契約解除は儀式で行われる。島に伝わる棘抜きで棘を抜く。
しおりの味方である紅葉はここで1つの仮説を提示する。
しおりへの好意すら契約の作用であったら?
一郎がしおりへの感情を恋心として自覚したのは不平等な契約を結んだ後である。つまり、契約によってしおりへの好意が芽生えたのなら、契約の解除という行為はしおりへの感情を変える要因になってしまうのではないか。契約を解除することで、しおりへの恋心を失うのではないか。
紅葉が提示する仮説は一郎としおりに多大な不安をもたらす。
契約解除の儀式自体はアッサリと終わる。そこで改めてしおりは尋ねる。
『おとなりに銀河』13話 より
しおりが涙ながらに訊いたこの問いに、一郎は「好きだ!」と想いが変らないことを告げる。
島の中では「姫だから好き」と、姫であることが全てのアイデンティティであった。
だからこそ、かつて漫画の中に憧れたように、「姫」というレッテルではなく自分自身を見てくれる一郎に惹かれ、そんな一郎に好きだと言われて涙を流した。
契約を解除する前にお互いに話し合っておけば良かったと一郎は後悔する。
だからこそ、伝えることを続けていきたい。(純粋で素敵な二人である)
親心と子心(久我家の場合)
3巻のテーマとして私が設定した「親心と子心」。
本作では五色家と久我家の2つの家族の形がある。
早くから両親を亡くし、弟妹を育てる一郎。
その家族の形には、しおりと違った難しさがある。
まちは一生懸命働く兄を気遣って、ふみおと遊ぶために友達と遊ぶことを自粛する。ふみおはまちに普通に遊んでほしい。その様子を眺めるしおり。
『おとなりに銀河』15話 より
一郎はここでも”伝えること”を重要視する。
溜め込まないでほしい。その想いを少しでも共有できるのが家族だから。
まちは一郎やふみおに想いを伝えていく。
その”伝える”という行為は伝播する。
一郎が経営するアパートの住民と花火を開催する。その中で、しおりは一郎にハッキリと伝えるのである。(何を伝えたかは察するか、3巻を読んでください!!)
『おとなりに銀河』15話 より
主のイチオシシーン
親と子ども。血は繋がっていても全く別の人間である。
テレパシーでもない限り、お互いが完全に分かりあうことなんて不可能である。
そのような意味では「家族」という枠組みは、全く別の人間を1つに集約する形式上の「契約」である。しかし、そこには他人とは別の感情があるのも間違いない。
例えば、自分の子どもを嫌悪する親なんて居ないのだ。
(自分の子どもを嫌悪するような人間を「親」と呼称するべきではない)
どんなにしおりとは意見が食い違っていても、それはしおりを想っての発言である。ある意味、最高の「親バカ」なのである。
そんな親バカが垣間見えるのがこちらのワンシーン。
本巻は1冊通じて、親心と子心が描かれていたと良く分かる。
『おとなりに銀河』12話 より